ゴムの低温試験とは
~ゴムの耐寒性の測定方法について~
ゴムの低温試験とは?
一般のゴムは、室温から温度を下げていくとゴム状弾性が次第に失われて弾性率が大幅に増大し、室温でランダムに分子配列していたものが、そのまま凍結してガラス状態になります。
ゴムの低温試験は複数あり使用する目的にあった試験方法と試験条件を選ぶ必要があります。
低温試験の種類
硬さ試験
硬さ試験機(JIS K6253)を使って低温槽内で硬さを測定する。
低温衝撃脆化試験(JIS K6261-2)
低温槽中でゴム試験片に一定の速度で動くハンマーによって衝撃を与え、低温におけるゴムの衝撃による脆さを測定する。
TR試験(JIS K6261-4)
低温槽中に浸漬して凍結させた後、伸びの固定を外して自由に収縮できるようにする。
低温槽の温度を一定の速度で昇温させ、温度による収縮(伸長率の復元)の様子を測定する試験で、低温における引張永久歪試験ともいえます。
低温圧縮永久歪試験(JIS K6262)
低温槽内で試験片に一定の圧縮歪を与えたまま既定の温度で規定の時間放置した後、低温槽内で負荷を取り除いて、厚さの測定を10秒後、30分後に行い圧縮永久歪を計算する。
ゲーマンねじり試験(JIS K6261-3)
低温槽内で細長いゴム試験片に長手方向の軸を中心にねじり力を加え、ねじれ角変位を測定する。
TR試験の方法と結果の見方
TR試験の方法
- 上・下チャック(図1)に試験片を取り付け、各試験片に規定の伸長率を与えて、ロック機構により固定する。
- 凍結温度(-70℃以下)に冷却した低温槽中に試験片ラックごと浸漬し、10分間保持した後、ロック機構を解除する。
- その後、低温槽の温度を1℃/分の一定速度で昇温させ、以後2分間隔での低温槽の温度と試験片の長さを読み取って記録する。
- 試験は、収縮率が75%になるまで続ける。
図1 TR試験機(左)試料チャック部(右)
結果の見方
各測定点での収縮率は、次式によって、計算する。
R=(L1-L2)/(L1-L0)×100
R:収縮率(%)
L0:伸びを与える前の試験片長さ(mm)
L1:規定の伸長率を与えた時の試験片長さ(mm)
L2:測定温度での試験片長さ(mm)
記録された各温度と収縮率をグラフにプロットすると、図2に例示するような曲線が得られる。
収縮率が10%、30%、50%、70%になる温度を読み取り、それぞれTR10、TR30、TR50、TR70と表して試験結果に記録する。
- TR10:ぜい化温度と関係がある。
- TR50:加硫が進んでいるほどこの温度が低くなるので、加硫の状態を管理するのに利用されている。
- TR70:低温圧縮永久歪と関連している。
- TR10とTR70の差:大きいほど結晶化しやすい傾向にある。
図2 温度-収縮率曲線の例
ゲーマンねじり試験の方法と結果の見方
ゲーマンねじり試験の方法
- 標準のワイヤ(ねじり定数81mN/m/rad)をセットし、試験片を垂直にかつたるみが無いようにやや張り気味に上・下チャック(図3)に取り付ける。
- 試験片を取り付けたラックを伝熱媒体(エタノール)で満たした低温槽内に試験片上部が25mm以上の深さになるように入れ、低温槽の温度を標準温度23±2℃に調節する
- ねじりワイヤの上部を速やかに180°回転させ、10秒経過後の角度検出器が示すねじれ角を記録する。このとき、ねじれ角が120~170°の範囲に入らない場合には、ねじりワイヤを弱いワイヤ(ねじれ角が170°を超えた場合:ねじり定数70 mN/m/rad)または強いワイヤ(ねじれ角が120°未満の場合:ねじり定数11.24 mN/m/rad)に交換して同じ操作を行う。
- 低温槽の温度を試験ゴムの凍結温度に冷却してその温度で15分間状態調節した後、23±2℃のときと同様にして試験する。
- 低温槽の温度を5℃間隔で上昇させ、各温度で5分間状態調節した後、同じように試験してそのときの温度とねじれ角を記録する。この操作を23±2℃の時のねじり角との差が10°以内になるまで繰り返す。
図3.ゲーマンねじり試験機(上)
試料チャック部(下)
結果の見方
記録された温度と試験片のねじれ角をグラフにプロットすると、図4のような曲線が得られる。任意の測定温度におけるモジュラスの、標準温度23±2℃におけるモジュラスに対する比率すなわち比モジュラスが次の式で表わされる。
RM=((180-θ’)/θ’)/(180-θ0)/θ0
RM:比モジュラス
θ0:標準温度23±2℃における試験片のねじれ角(度)
θ’:測定温度における試験片のねじれ角(°)
ゲーマンねじり試験では、比モジュラスが2、5、10、100になる温度、つまりモジュラスが23±2℃の時のモジュラスの2倍、5倍、10倍、100倍になる温度、t2、t5、t10、t100を試験結果として求める。
- t2:この温度付近までは、室温と同様なゴム弾性を維持しているとみなす
- t5、t10:この温度領域はわずかな温度の違いで剛性率が著しく変化し、ガラス転移領域にある。
- t100:この温度でゴムはほぼ凍結しており、ガラス状態にある。
図4 温度とねじれ角との関係の例
耐寒性の良いゴムは?
一般的に低温で分子運動が活発で、硬さと反発弾性および引張応力の変化が小さいゴムが耐寒性に優れるゴムです。
代表は、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ブチルゴム、天然ゴム、EPDMです。
耐寒性の良いゴムにするためには?
ゴムの耐寒性は、材質が支配的であり分子構造によりほぼ決まります。
同じ材質でも耐寒性に優れるグレードがあります。EPDMではエチレン量の低いポリマーを選定し、NBRではアクリロニトリル量の低いポリマーを選定する方法があります。
配合で耐寒性を改良する方法の一つは耐寒性可塑剤の配合です。二つ目は相溶性が良好でガラス転移温度(Tg)の低いゴムのブレンドです。
参照:
新ゴム技術のABC 社団法人日本ゴム協会東海支部
ゴム試験法 第3版 社団法人日本ゴム協会「ゴム試験法」編集委員会
<新板>考え方・合成ゴム基礎講座 株式会社大成社