エラストマー(TPE)とは?
~特性と使用用途について~
熱可塑性エラストマー(TPE)概要
TPEはゴムポリマーの様に常温で非晶性(柔らかい)ポリマーと樹脂ポリマーの様に常温で結晶性(硬い)ポリマーの相性が良いもの組み合わせて作られており、常温時には加硫ゴムの様な弾性を有します。TPEは加硫ゴムと違い溶融温度になった際に可塑化します。冷却により再度固化し再び加硫ゴムの様な弾性を持ちます。また、熱に対して樹脂と同様の性質を持ち合わせていることから樹脂同様に様々な成形方法が使用でき、加硫ゴムと比較すると加工費が安価で形状のバリエーションも多いです。
加硫ゴムとTPEの構造
加硫ゴムとTPEは柔軟性のある非晶性ポリマーを架橋点または結晶性ポリマーにより繋ぎ合わせている構造を取っており、両者とも常温下では同様の働きをします。この場合の架橋点と結晶性ポリマーをハードドメインといいます。
両者とも非晶性ポリマーが |
加硫ゴムとTPEが弾性を得られる理由
非晶性ポリマーは絡まり合っている状態が安定的であり、小さな応力(変位)であれば元の形状に戻ります。これをエントロピー弾性と言います。但し、エントロピー弾性以上の大きな応力に対しては非晶性ポリマーどうしが滑ってしまい、元の形状には戻れず分子どうしが滑った状態からエントロピー弾性が働きます。それに対し加硫ゴム及びTPEはハードドメインにより非晶性ポリマーがつながっているため、大きな応力がかかっても非晶性ポリマーどうしは滑らず分子構造を維持します。また、変形した状態からは非晶性ポリマーのエントロピー弾性により元の形状へ復元します。
加硫ゴムとTPEの違い
加硫ゴムのハードドメインは架橋点で熱をかけても硬化したままであるため加硫ゴム自体も硬化したままです。それに対しTPEのハードドメインは熱可塑性の結晶性ポリマーで、融点以上の熱をかけると可塑化します。また、結晶性ポリマーが可塑化する事によりハードドメインが無くなりTPE自体が流体になります。但し、結晶性ポリマーの温度が融点を下回ると結晶性ポリマーが再度固化し、ハードドメインを形成するため再びゴムの様な弾性を有するようになります。
エラストマー(TPE)の特徴
長所
ハンドリング性
加硫ゴムは成形の1サイクルが5~15分と長いですがTPEは1~3分程度であるため高サイクルの生産が可能です。また、TPEは加硫ゴムより比較的脱型が容易であり、樹脂と同様に自動脱型が容易に行えます。
二色成形性
加硫ゴムでは金属材料との複合成形を行うことがありますが、その際に金属に接着剤を塗ったりと工数が掛かります。TPEの場合は相性の良い樹脂と複合成形ができ、接着剤を用いなくとも良好な接着が可能です。また、TPEは樹脂成形機で成形するので硬質樹脂とTPEの複合成形を一連のラインで実施する二色成形が可能です。
リサイクル性
加硫ゴムは一度加硫をしてしまうと簡単には加硫前の状態に戻すことができないため、工程中に発生した不要な加硫ゴム(バリなど)は廃棄するしかありません。TPEの場合、一度成形しても熱をかける事により再可塑するため、工程中に発生した不要なTPEを容易に再使用することが可能です。(但し、一度可塑化したTPEは若干材料物性が落ちていることがあるため注意が必要です。)
短所
耐熱性が低い
TPEの最大の短所は熱可塑性の特性により耐熱性が低いことです。特にTPEの軟化点・融点を超える環境下では成形物が著しく変形しやすくなります。また、応力緩和が大きくクリープ(長時間の応力による形状変化)が起こりやすくなります。そのためシールなどの用途には適していません。
加工性の違い
工程 | 加硫ゴム | TPE |
混練り | 有 | 無 |
材料のプレフォーミング | 有 | 無 |
成形(成形時間) | 有(長い) | 有(短い) |
1shotあたりの取り数 | 少~多 | 少 |
仕上げ | 有 | 無 |
検査 | 有 | 有 |
工程が少ないため加硫ゴムと比較してTPEの方が比較的安価になる傾向あり。
TPEの種類と特徴
項目 | TPS | TPO | TPVC | TPU |
結晶性ポリマー | ポリスチレン | ポリプロピレン | PVC | ポリウレタン |
非晶性ポリマー | BR or IR | EPM | PVC or Oil |
ポリエステル |
硬さ(Duro-A) | 40~70 | 60~90 | 40~70 | 80以上 |
引張強さ(MPa) | 9.8~34.3 | 2.9~18.6 | 29.4~49 | 25.5~39.2 |
伸び(%) | 500~1200 | 200~600 | 400~500 | 300~800 |
反発弾性(%) | 45~75 | 40~60 | 30~70 | 30~70 |
耐熱温度(℃) | 80 | 120 | 100 | 100 |
耐油性 | × | △ | 〇 | ◎ |
耐候性 | ×~〇 | ◎ | △~〇 | ×~△ |
脆化温度(℃) | -70以下 | -70以下 | -50~-30 | -70以下 |
使用用途 |
柔軟性・弾性が高い ハンドル・ |
耐候性・耐熱性が高い 車のバンパー・ |
耐油性・耐薬品性が高い 医療用チューブ・ |
耐摩擦性・柔軟性が高い 携帯ケース・ |
TPEの主な用途
工具のグリップ、ケーブルグロメット、ホース、玩具、スポーツ用品等に使用されています。
またTPEの中には衛生性が高いグレードがあり、そのグレードでは、食品梱包材、歯ブラシの滑り止め、医療用チューブ等に使用されているものもあります。
参照:新版ゴム技術のABC 編集・発行:日本ゴム協会東海支部