ゴムの浸漬試験とは?
~ゴムの耐液性(耐油性)の測定方法~
ゴムの浸漬試験とは?
ゴムに対して、オイルなどの液体がどのような影響を及ぼすかを確認する試験です。
JISやISOなどの規格に試験方法が定められています。
浸漬試験の方法と結果の求め方
「JIS K6258 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐液性の求め方」の測定方法を紹介します。
対象となる液体に試験片を浸せきし、浸せき前と浸せき後との各種変化を確認します。確認項目としては、寸法、質量、体積、表面積、引張強さなどの特性、抽出物の定量などがあります。
試験片の全面を浸せきする事が一般的ですが、片面のみを液体に接触させる、片面浸せき試験もあります。
試験準備
浸せき試験の容器は、液体の蒸発や空気の侵入を最小限にするために、対象の液体の揮発性を考慮して選定します。
試験温度が対象の液体の沸点より十分低い場合は、試験管やガラス瓶に栓をして使用します。対象の液体の沸点付近の場合、試験管やガラス瓶の容器に冷却管を使用し、蒸気が還流する仕組みを作ります。
また、その容器は試験片が完全に浸せきされ、試験片同士の表面が互いに接触する事なく浸されるような大きさの物とします。更に、対象の液体は、試験片の15倍以上の体積とし、容器内の空間を最小限に抑えた大きさを選定します。
試験容器(一例) 試験管、耐圧容器
試験用液体の準備
対象の液体は、試験の目的に合わせて選定しますが、下記のような注意が必要です。
- 製品の実使用環境を考慮し、実際に用いる液体を選定する場合
この時、市販品は組成が一定ではない可能性があるため、試験に用いる液体は、特性が既知の試験用液体を使用し、比較できるようにする事が望ましいです。
- 液体の組成は、試験中に大きく変化しないように、液体の経時変化と試験片との相互作用を考慮します。
液体に化学的に活性な添加剤がある場合や、ゴムからの抽出、ゴムへの吸収、ゴムとの反応によって液体の組成に大きな変化がある場合は、試験中に新しい液体との交換が必要です。
ただし、交換の期間は当事者間の協議によります。
- 燃料油及び鉱物油を選定する場合
一般に流通しているものは、市場における等級が同じであっても化学組成がかなり異なるために注意します。
特に鉱物油のアニリン点は、他の条件が同じであればアニリン点が低いほどゴムを膨潤させるといわれています。その他のわずかな組成の違いでもゴムに対して大きな影響を与える場合があるため、用いる液体の詳細を試験報告書に記載しなければなりません。
- 市販の液体は、常に一定の組成をもつとは限らないため、明確に定義された化合物またはその混合物から成る液体を用いらなければなりません。
- 試験薬品の濃度は、目的とする用途に合わせなければなりません。
試験片の準備
- 質量変化、体積変化、抽出物試験用の場合
体積が1cm3以上3cm3以下で厚さ2.0±0.2mmの試験片を各3個準備します。
- 寸法変化用の場合
一辺が25~50mmで厚さ2.0±0.2mmとします。試験片の側面は平らに滑らかに切断し、なおかつ上面と底面に対して直角とし、各3個準備します。
- 表面積変化用試験片の場合
一辺が約8mmで厚さ2.0±0.2mmの試験片を用います。試験片の側面は平らに滑らかに切断し、なおかつ上面と底面に対して直角とし、各3個準備します。
- 引張試験用試験片の場合
JIS K6251の6.1ダンベル状試験片、又は6.2リング状試験片を用い、3個以上準備します。
- 硬さ変化用試験片の場合
JIS K6253-2国際ゴム硬さ、及びJIS K6253-3デュロメータ硬さに規定した試験片を各3個準備します。
浸漬条件
- 浸せき温度
浸せき温度は、製品の使用目的に応じてJIS K6250の11.2.1標準試験温度及び標準試験湿度、及び11.2.2その他の試験温度から選択します。
- 浸せき時間
浸せき時間は、JIS K6250の11.1試験時間から選択します。それ以外の浸せき時間で行う場合は、当事者同士の協議によります。
試験方法
- 準備した試験片を対象の液体が入った容器に重ならないように入れ、試験温度に放置します。
- 浸せき終了後、容器に入ったまま30分以内に標準温度に戻します。
- 液体から取出し、ろ紙または糸くずの出ない布で素早く拭き取り、それぞれの試験を実施します。
この時、揮発性の高い液体の場合は試験片内に入り込んだ液体が揮発し、結果が変わってしまう可能性があるため、特に素早く試験に取り掛かるように注意が必要です。また、試験後の同じ試験片を他の試験に使用する場合、再度液体に試験片を浸します。 - 液体から取出してから測定終了までの最大時間は、揮発性液体の場合は次のようにします。
寸法変化: 1分間
硬さの変化: 2分間
引張試験: 2分間
試験管への試験片 浸せき状態
テストチューブ老化試験器(試験管などを調温する装置)
結果の求め方
結果はJISにて指定された項目から選定される事が一般的です。体積変化、硬さ変化、引張強さ変化率、伸び変化率、抽出物の定量など様々な項目があります。変化や変化率の算出は、浸せき前の初期の値を基準に算出します。
抽出物の定量は、下記のような方法があります。
- 浸せき前の試験片の質量と浸せき後の試験片を乾燥させた後の質量との差分を計量する。
- 浸せき後の試験液を蒸発させて乾燥させ、揮発しない残留物を計量する。
主に使用される試験油一覧
分類 | 対象液種類 | 概要 |
---|---|---|
試験用燃料油 |
A、B、C、D、E、F |
酸化化合物(アルコール類)を含まない種類 ※B、C、Dは主に自動車用ガソリンの代替品 Fはディーゼル燃料油、灯油、軽油の代替品 |
1、2、3、4 |
酸素化合物(アルコール類)を含む種類 ※アルコール添加自動車用ガソリンの代替品 |
|
試験用潤滑油 |
IRM901 | 低膨潤油 |
IRM902 | 中膨潤油 | |
IRM903 | 高膨潤油 | |
試験用サービス油 |
101 | ジエステル型潤滑油の代替品 |
102 | 高圧力作動油の代替品 | |
103 | 航空機用りん酸エステル作動油代替品 |
耐油性の良いゴムは?
耐油性とは、ゴム分子の極性と油の極性の差により発生する性質です。
ゴムが膨潤するという現象は、ゴムの分子間に油が入り込む現象で、極性が異なる物質同士はお互いに混ざりにくく、膨潤しにくいといえます。
一般的に、ニトリルゴム(NBR・H-NBR)やふっ素ゴム(FKM)は耐油性に優れ、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、天然ゴム(NR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)は耐油性が悪い傾向にあります。
ただし、耐油性の良いNBRも同じ極性の油では膨潤するため、すべての油に耐性があるわけではなく、選定に注意が必要です。
耐油性の良いゴムにするためには?
耐油性の良いゴムはポリマーの分子構造に依存する所が大きいですが、同じ材質においても選定するグレードによって耐油性は変わります。また、ポリマー以外についてはゴム中に配合する可塑剤が添加されている場合は、ゴムは膨潤(体積増加)と抽出(体積減少)が並行して起きます。
市場でトラブルになるのはオイルによる膨潤(体積増加)や可塑剤抽出(体積減少)によって、大きな硬度変化、寸法変化が生じた場合です。
耐油性の良いゴムにするためには、配合する可塑剤の抽出減少を意識的に利用したり、膨潤の原因となるポリマー分を少なくしたり、接触するオイルと同質の物をあらかじめゴムに配合剤として混練りしておく配合技術があります。
参照:
JIS K6258 加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-耐液性
<新板>考え方・合成ゴム基礎講座 株式会社大成社